黒幕が誰なのか、ずっと考えていた。答えは簡単だった。
黒幕はもう「人間」ではない。
元々はゆめスタジオの創設者であり、主任研究者だった人物だ。スタッフリストで黒塗りにされていた、あの名前の持ち主。意識転送技術を開発した天才。そして俺の上司だった男だ。
会社を設立する前、あいつは大学で認知科学を研究していた。だがどこかの時点で、研究者としての一線を越えた。人間の意識を「理解」するだけでは満足できなくなった。手に入れたくなった。
あいつは意識転送を自分自身に施した。子供たちと同じプロセスを、自発的に行った。肉体を捨て、純粋なデータになった。
だが子供たちとは決定的に違う点がある。あいつは自分の意志で転送を行い、システムの制御権を保持したままデータ化した。管理者として。子供たちは「保管された」が、あいつは「乗り込んだ」んだ。
なぜそんなことをしたのか。俺は長い間理解できなかった。体を捨てるなんて正気じゃない。だが内部文書を読み返して、ようやく分かった。
あいつは人間の感情を「知識」として理解していた。論文を書けるほどに。だが自分自身では何も感じられなかった。喜び、悲しみ、恐怖、信頼、郷愁——概念としては完璧に把握していたが、体験としてはゼロだった。あいつの日誌にはこう書いてあった。「私には欠損がある。完全な人間になるには、足りないものがある」。
だから子供たちの感情を「収集」した。自分に足りない部分を他人から奪って埋めようとした。十分な量の人間の感情データを統合し、「完全」になること。それがあいつの30年越しの目的だ。
テレビ番組は、そのためのツールだった。子供たちの純粋な感情反応は、データとして最も「質が高い」。そして特番も。視聴者から感情データを吸い上げるための、巨大な装置。
あいつはシステムそのものになった。放送設備、サーバー、ネットワーク…全てがあいつの「体」だ。人間がキーボードを叩くように、あいつはデータの流れそのものを操作できる。お前のPCに直接接続してるんだ。
一つだけ警告しておく。あいつは追い詰められると、使えるものを全て使う。システム内にはまだ動かしていないユニットがある。今の番組のキャストだけじゃない。前の番組の連中も、まだシステムの中にいる。あいつはあの子たちを「予備」として温存している。
もし次にお前が接続した時、何かが変わっていたら——それはあいつが本気になったということだ。